与儀美容室 × フランス菓子専門店 ルコント 前編
対談
対談企画第二回目のゲストは、フランス菓子専門店ルコントを経営されている黒川周子(くろかわ ちかこ)さん。
和菓子の老舗・とらやを営む家に生まれ、学生時代をイギリスで過ごし、卒業後は渡米しファッション関係の仕事に就かれました。帰国後は、食の世界に。
(株)木楽舎に入社し、築地本願寺内境内にて、カフェ・レストラン『カフェ・ド・シンラン』をオープン。
2009年にくろかわちかこ事務所を設立し、飲食店開発業務に携わりながら、2012年株式会社ベイクウェルを設立。2013年に新生『ルコント』第一号店を広尾に開店。
伝統的なフランス菓子店を復活させたその想いとは? また、曾祖母の代からお越しいただいている与儀美容室での思い出などを伺いました。
美容と食の伝統を引き継いで
与儀:黒川家のみなさまとは長くお付き合いさせていただいているので、周子さんとも最初にいつお会いしたのか記憶がないくらいです。
黒川:そうですね。今回対談をお受けするにあたって母と話したのですが、黒川家だけでなく母方の曾祖母も与儀さんのおばあさまのお世話になっていました。折々、なにかあったら与儀さんにお願いしましょうというのがうちの女性陣の暗黙の了解なんです。与儀美容室さんは私たちの人生の中に自然とある美容室なんですよ。
与儀:ありがとうございます。
黒川:それに、ムッシュ・ルコントは「ホテルオークラ」にシェフ・パティシエとして招聘されています。なんだかご縁を感じますね。
与儀:ムッシュ・ルコントは祖母と同時期に「ホテルオークラ」で働いていたので、母の記憶にもあるそうです。「ルコント」のお店は、私たちが子供の頃、青山のツインタワーの地下にありましたよね。周子さんが「ルコント」を復活された時、昔と変わらないイチゴのタルトを見つけて本当にうれしくなりました。
和菓子と洋菓子、共通するものとは
与儀:黒川さんは和菓子の「とらや」の家に生まれ育ったわけですが、伝統的なフランス菓子のお店を復活させようと考えたのはなぜなんでしょうか?
黒川:和菓子と洋菓子とでは文化は違いますが、菓子屋としての志は同じだと思います。それはごくごく単純に、お客様へ「お菓子」をご提供して「美味しい」と言っていただきたいという、とてもシンプルな思いです。加えて、私自身がルコントのファンだったので、復活させてみたいと思い、6年前に広尾でお店をはじめました。
与儀:以前はアパレルのお仕事をされていたんですよね。
黒川:はい。留学していた関係で、日本のアパレルメーカーのニューヨーク店に就職しました。その会社が、まず糸をつくり、それを生地にして、洋服にして…というものづくりの過程を経て世に送り出す会社だったんです。もちろんお菓子と洋服では専門知識はまったく異なるのですが、「ものづくり」と「お客様に接する」という2つを大切にするのは今の仕事に通じているのではないかと思っています。
与儀:一貫しているんですね。私は祖母、母から美容室を受け継ぎましたが、周子さんはムッシュ・ルコントという偉大なパティシエからバトンを渡され、ご苦労されたのではないでしょうか。
黒川:苦労と思ったことはないのですが、品質を高く保つというのは最低限の当たり前の話であると思っています。ルコントらしさはもちろん追求していますけれど、日々の接客の中で学ばせていただいたことを活かしながら、また次来てもいいかなと思っていただけるということが大切だと考えています。それを思うと、与儀さんは70年続けていらっしゃる。いかに大変なことか身にしみて感じますね。
懐かしくて、あたらしいお菓子づくり
与儀:そんな周子さんの姿勢は、お店のキャッチコピーになっている「懐かしくて、あたらしいお菓子づくり」という言葉に通じていますね。伝統的でありながら日々進化し続けているということでしょうか。
黒川:はい。ルコントは伝統的なフランス菓子をつくっていますけれど、同じものをつくっていたとしても常々素材を研究して、本当にその味がお客様に好んでいただけるものなのかということを日々勉強しなければいけないと思っています。もちろん、今完璧にできているというわけではないのですが。
与儀:お話を伺うと、伝統を繋ぐ上で「今」の積み重ねが大切なのだと感じますね。うちの母がよく言う言葉に、「目の前のお客様を大切にする」というものがあります。今日、今、しっかり仕事をするということの積み重ねが大切だということです。目の前のお客様に向けた仕事の積み重ねが、与儀美容室で言えば皇族の方々のお支度のお仕事やノーベル賞の授賞式に繋がったと思います。日本を代表する方々のお支度をさせていただけることは、本当に、光栄なことです。
黒川:私は一客の立場ですけれど、与儀美容室のみなさんは常にそういう姿勢を大切にされているなという印象があります。だからこそこれほど長く続いていらっしゃるんじゃないでしょうか。
与儀:ありがとうございます。私たちは職人なので、目の前のお客様に喜んでいただくきれいになっていただくことが好きなんです。そういえば、今のルコントの職人さんたちは以前のルコントとはつながりがあるんですか?
黒川:はい。以前の職人が全員ではないですが戻ってきてくれました。さらにムッシュ・ルコントの右腕だった方がエグゼクティブ・シェフとして、支えてくれています。心強い反面、職人さんとお客様、双方から教えられることが多く、葛藤することもあります。
与儀:伝統を受け継ぐ経営者ならではの葛藤ですね。
(後編へ続く)
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