与儀美容室 × フランス菓子専門店 ルコント 後編
対談
フランス菓子専門店ルコントを経営されている黒川周子(くろかわ ちかこ)さんとの対談企画の後半です。伝統と革新を重ねる与儀美容室とルコント、2つの老舗に通じる「思い」に迫りました。
変わらぬものがそこにある大切さ
与儀:先日、ある宮様とお話していた時に、「日本人は常に新しいことにチャレンジしなきゃいけないと思いがちだけれど、ずっと続ける。やり続けるって素晴らしいことじゃないかしら」 とおっしゃっていて、本当にそうだと思いました。ルコントのお菓子は子供の頃から知ってい る特別なお菓子でしたけれど、それが形は変わらずそこにあるという安心感があります。どなたにお持ちしても大丈夫だという信頼を感じています。
黒川:それは私は与儀美容室さんに感じています。諸先輩方にお会いする機会が多いのですが、 着物も髪型も与儀さんでお支度をすると、母世代・祖母世代の方にお会いしても先様に失礼がない。
与儀:着物は季節と格と素材、そしてTPOさえ分かっていれば良いんですが、今はみなさんだ んだんと分からなくなってきていますよね。どんなに高価でも白大島は正装ではない。それは ハイブランドのジーンズで、正装で伺うところに行くようなものなのですよね。
黒川:与儀さんに伺えば、ただきれいになれるだけでなくそれ以上のことも教えていただける。だから、これほどお客様が長く通われるんでしょうね。
与儀:ありがとうございます。ルコントのお菓子は信頼ももちろんですが、私にとっては人生 の思い出になっているところもあります。毎日買ったりするわけではないけれど、どなたかに いただたり、自分で記念日に買ったりしたことが人生の節目節目で思い出されます。そういう 意味では七五三や成人式などでいらっしゃるお客様の多い与儀美容室の関係に近いのかもしれ ませんね。
「正しく生きる」ということ
黒川:先程も申し上げたとおり、母方の曽祖母が与儀さんのおばあさまにお世話になっていましたし、父方もとてもお世話になっていました。私の祖母が亡くなったときも与儀さんにお伺いしたのですが、身支度を整えるというというだけでなく祖母の思い出をお話いただいたり、 家族と時間を共有してくださいました。そういうお店様だからこそ、母は大切な娘、祖母は孫娘に「あなた、行っていらっしゃい」と安心して言えるのではないかと。スタッフのみなさんも男前と言いますか、潔い方ばかりですよね。
与儀:うちには三信条というものがあるんです。
「正統であること」「上品であること」「親切であること」なのですが、うちの母は何より正しく生きることが大切だと常々言っています。
なので、ミスしても怒らないですが、ミスを隠すために嘘をつくと烈火のごとく怒ります(笑)
黒川:みなさんはっきりとされておられ、裏表がないので、気持ちよく通わせていただいてい ます。「また次も来よう」と思えるのはお人柄ですよね。
私も正しくある、というのは一番大 事じゃないかと思います。でも、成し遂げるのが難しいですよね。だから、そういう気持ちを持ち続けることが大切なのではないかと改めて思いました。
老舗を守る先輩としての家族
与儀:黒川さんは仕事のことを家族に相談されますか?
黒川:自然と仕事の話になります。
与儀:私は仕事場が同じということもあり四六時中話しています。喧嘩をすることもあります が、新しいヘアケア用品のことやサービスのことなど、なんでも細かく話しますね。
黒川:与儀さんは経営者と現場と両輪でお仕事されていますよね。大変なのではないかとお察しします。
与儀:経営者としては、自分も技術がないと美容師という職人に対して説得力がないという点は苦労しました。母からは「誰にも負けない技術をひとつ身につけなさい」と言われ、ウェデイングのメイクで人に真似できないものを試行錯誤して、20年やってきました。母に厳しく技術が大切だと言われたことは、感謝しています。
ふたつの老舗に通じる「思い」
黒川:ルコントは創業50年を迎えましたが、私がはじめてまだ6年しか経っていないので、ムッシュ・ルコントがどうしてこんなに愛されるお菓子を作ってきたのか歴史を紐解くべきだと思い、フランスに渡っていろんな方のお話を聞きました。
与儀:私も出版の準備がすすむにあたり、改めて母から聴くと「そうだったの?」と驚くことばかりで。 紐解きの時期という意味では共通していますね。
黒川:与儀美容室の歴史は日本の現代美容の歴史ですよね。いちファンとして、とても楽しみ です。和装から洋装への転換期で、ヘアカラーやパーマ液などが何も手に入らない時代に美容をはじめられたおばあさまの人生には、語り尽くせない歴史があるのではないでしょうか。
与儀:祖母は新しい技術を取り入れるのに積極的で、カラー剤をGHQのお店で買って自分で試 して髪が紫になったり、ピーリング剤を試して顔の肌が剥けてしまったこともあるようです。 日本の美の発展に尽くした、というと素敵に聞こえますが、ただただ本当に仕事という枠を超 えて美容が好きだったんだと思うんですよ。
黒川:好きだというその自然な雰囲気でやっておられるから、お客様も気負わず通えたのではないでしょうか。今とは比べ物にならないくらい物がない時代で、一流のお客様ばかり対応されてご苦労されたのではないかと思います。
与儀:ルコントの歴史も、フランスのお菓子なんて食べた人がほとんどいない時代からはじまっているんですよね。そういう意味で、共通しているところがたくさんあるような気がします。 私達のお店はどちらも厳しい時代を駆け抜けてきたからこそ、「常にお客様のために」という強い思いが育ったのかもしれません。
今日は本当にありがとうございました。
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